なにやら食堂が騒がしい。
その原因を知ろうとディアッカは食堂に入ると、ほとんどの男
性クルーが群がって騒いでいた。
「何騒いでんだ?」
群れの中に明るい茶色の短髪を見つけ、その近くへ行く。
声をかけると青ざめ顔したサイが振り返った。
「出たんだよ…アイツが…」
声が硬い。
「出た?ってかアイツって何だよ?」
そう聞いた瞬間“言わせるのか”という非難の目が返ってきた。
何なんだ、一体…
ディアッカの頭にはハテナマークしか浮かばない。それがよっ
ぽど間抜けに見えたのか(彼としてはかなり不覚だったが)、
サイは溜息を吐いてから周りには聞こえ難い程の小さい声で
答えた。
「……ゴキブリだよ」
「ごきぶり〜?」
サイの言葉にオウム返しの様に口にした途端凄い形相をし
たクルーが全員彼を怖い顔で睨んできた。
うわっ、こいつら目が殺気染みている。
何人かが「その名前を口にするな」とか「俺、今日眠れない」
だとか腕を摩りながらぶつくさ言っているのが聞こえた。
「へ〜、みんな揃ってダメな訳ェ?」
「「「 当たり前だ!あんなもん好きなヤツがいるかっ! 」」」
クルーの見事なハモリ具合に彼は笑うどころか少々呆気に
取られるも、面白い事を知ったなと思った。のだが、
如何せん…
「“ごきぶり”って何?」
「「「 …は? 」」」
そんなに嫌われるモノが一体何なのか知らなかった。
それにしてもまたもや見事なハモリ具合だなぁなんて余計な
ことを思っていると、異様な空気が自分を取り巻いたのに気
付いた。
そこにいるクルー全員が一様に彼を凝視している。
「え、と…知らないのか?」
またもや硬い声でサイが言った。
「あープラントにゃいないな、そんな名前のもん」
“アイツが出た”というくらいだから、食べ物というよりは生きて
いるモノなのだろう、とそこまでしか推測できなかった。
そういえば
AAの居場所を探すのにオーブに潜入した時、彼以外の3人は
タコを気味悪がって引いてた昔の記憶がふいに浮かんだ。
あの時のイザークやアスラン、ニコルの顔と言ったらなかったな。
そう今でも思い出すだけで笑えた。
「こりゃ意外だな…プラントにはいないのか」
羨ましいなどと言いながら何か含む目で全員が自分を見ている
のに嫌な予感がした。「何だよ」と聞くと、誰かが彼の背中を押し
て強制的に前へと押しやった。
目の前には見慣れた食堂の壁一面が広がっている。
一体例のモノがどこにいるのかさっぱり判らず、聞こうとした時
よく利く彼の耳が嫌悪を示したくなるようなカサカサという音をしっ
かり拾った。
音がする方…壁と床の境目、視線を落とした所に目をやる。
そこには茶色味がかった光沢ある黒い物体が何かを探る様に
世話しなく伸びる触角を動かしていた。
「うげっキモ!」
声に反応したかのようにソレは壁をよじ登った。
その動きの素早さが気色悪くてこの上なく、久々にディアッカは
全身鳥肌が立てていた。
「早く殺せよ、サイ」
そう小声で言って隣に立つ男、サイの肩を肘で突付く。
「俺だって駄目なんだよ!
…というか君、虫殺すの得意そうじゃないか!」
まるでお前がヤレと言わんばかりの言葉だ。
「誰が得意なんだよ!俺は虫だけは嫌いなんだっつーの!」
そう反論すると今度は意外だ…とばかりの顔を彼はされた。
全く心外だと憤慨していると「何言ってんだ!お前の乗ってるMS、
バッタじゃねーか!」という野次が後ろから飛んできた。
聞き捨てならんとディアッカは振り返り、怒鳴る。
「バスターのどこがバッタなんだよ!」
「頭部だよ!というか配色自体バッタだろ!」
「ああ゛?」
「確かに…
仮面ラ●ダーだよな、あれ」
「何だとっ!?」
一触即発
そんな空気の中、場違いな声が響いた。
「何騒いでるんですか?」
その場にいた全員が食堂の入り口に目をやると、紅二点の
1人がそこに立っていた。
「嬢ちゃん!」 「ハウ!」 「ミリアリア!」
彼女の登場に危惧した者や驚いた者、喜んだ者と見て取れる
反応の中でも、彼女が来たのを喜んだ1人、サイがミリアリアに
状況説明をする為に彼女の傍へ行く。
もう1人のディアッカもサイに続いて近寄った。
「どうしたの?サイ」
「アイツが出たんだよ」
情け無さそうに苦笑するサイ。しかしミリアリアは気にした様子
もなく言葉を返した。
「アイツが?」
「うん、多分オーブで入ってきちゃったんだと思うんだけど」
「それで、もう殺したの?」
「それがまだなんだ…」
「そう、分かったわ」
そう呟くと机の上に置いてあった手ごろそうな雑誌を丸め始めた。
最後に両手でキュッとキツク丸め、狙いがいる場所へ雑誌片手
にそっと近付く。
ゴキブリと彼女との距離はわずか数センチばかり。その距離
には並々ならぬ緊張感と殺気が漂っている。それが金縛りのよ
うに辺りにいる男達を動けなくさせていた。
息を殺してじっと狙いを見詰めるミリアリアの目は完全に捕食
者のものになり、好機を狙って待っている。
相手の触角の動きがピタリと止まった瞬間、目にも留まらぬ速
さで持っていた雑誌をその相手に向かって叩いた。
そして彼女が雑誌を下ろすと同時にあの黒い物体が重力に従っ
て地にひっくり返って落ちた。それを見計らっていつの間にか持っ
てきていた塵取りとほうきをサイは彼女に渡し、代わりに彼女が
持っていた雑誌を受け取った。
ミリアリアは手早く落ちたものをほうきで掃いて塵取りの中に入
れ込むと、食堂から出て行った。
少ししてから彼女は食堂に戻って来たが、未だに空気が固まっ
ているのに苦笑を零す。
「これで大丈夫でしょ」
アイツもトイレに流したから万が一は起きないと思うし
と、固まったままのクルー達を安心させる様に笑顔で言った。
「流石、“ゴットハンドのミリィ”」
唯一あの一連の中で動けていたサイは彼女をそう称賛した。
「やだサイ、その名前恥ずかしいんだから呼ばないでよ」
なんて良いのか悪いのか判らない名を言われて気恥ずかしそう
にするミリアリアを未だに他のクルーは固まって見ていた。
( 「「「 そんな特技があったなんて意外だ…! 」」」 )
この中でも一番嫌だと言いそうだった少女の行動に唖然として
しまう中で、独りだけ口に手を当てている男がいた。
「やっべ…惚れ直したかも」
思ったことを素直に口にして、
口元の端が上がるのを必死に手で抑えていた。
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(26『意外だ…!』)2006/03/11・種
バスター好きですから!でもバッタみたいだとは
前々から思ってたんです…ボソボソ(小声)
ゴキブリ知らない虫嫌いなディと
ミリィの知られざる特技・神の手。
おまけにザラ隊の昔話…
裏でお腹抱えて笑ってたろうな。
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