そんなもの信じて何になるというんだ。貫き通したからといって本当に
そうなる確証などありはしない。
莫迦を見るのはそうした自分なのだから。
運動をしている人間にはよくある話だが俺は運動選手ではないし、あっ
てもなくても困る事などない。だから必要ないものは持ち合せる気なんて
そもそも起きない。そのはずなのだ。
俺はそういう人間のはずだ。
「前から気になってたんだけど」
偶然昼休憩が重なり一緒に食事を摂っていると、普段は言葉を交わさず
に坦々と食事を済ませるミリアリアの方から唐突に話をきり出してきた。
「何なのよ、あれ」
自分で話掛けておいて、露骨に嫌そうな顔を見せるのは如何なものか。
それでも嬉しく思う自分も大概可笑しい。頬が緩み、口元が歪む。
「アレ=H」
「あんたが出撃する時にしたポーズ!」
彼女が言うポーズ…―右手の人差指・中指を立てた崩し気味の敬礼に
どうやら何かご不満があるようだ。どうせ単純な理由で嫌なのだろう。
最近人を観察して感情の推測ができる様になった。それもほとんど彼女
関係限定ではあるが…。
これを知ったら「解ってるなら止めろ」とサイに言われるのは百も承知だ
が、そこは残念ながら直す気はない。
「ああ、これ?」
だから解っていても彼女の前でそのポーズを執り、加えて愛嬌でウインク
してみせる。瞬間ミリアリアのこめかみが微かに動いたのを流石というの
か、備え付けの目はしっかり捉えていたが頭の中で見なかった事として処
理した。
「だからっ!なんでやる必要あるのよ!」
音でも聞こえてきそうなくらいの強い視線を向けられる。それがイイ意味
で熱が篭っているヤツなら願ってもないのだが、期待が叶うのはいつにな
るのやら。そんな事を考えてしまうとどうもやる気というものが出ずに彼女
相手でも御座なりな対応をしてしまう。
「つか、なんでそんな事聞くかね」
「質問してるのはこっちでしょ」
もっともな切り返しではあるが、彼女の要望通りの返事を返してやる必要
なんてない。悪いが俺は性来ずるいのだ。それを未だ忘れる彼女が悪い。
「聞く理由を教えてくれたら言う」
「なっ、」
「等価交換、だよ」
信じられないという顔に内心苦笑する。自分で嫌われる様な事言ってりゃ
世話ないな。「莫迦だ」って色んな奴等の声がしてくる。
暫しの沈黙後溜息が彼女の口から漏れた。観念したのか、上にあった視
線が下で彷徨っている。
「っ…集中できないのよ、されると…」
「…」
唖然とした。どうやら自分で思っている程彼女の中での俺は最悪ではない
らしい。あくまでも出逢った当初よりは、だろうが。
てっきり俺の軟派的行為が気に喰わないと言うと思っていたのだ。
「で、“だから止めろ”、そういう事?」
「解ってるなら止めなさいよ」
「ああ、無理」
「あんたね!」
無理なんだよ、ミリアリア。どんなに怒鳴られようともあんな事を言われて
しまったら尚更止められない。止めてやる気などない。
「言えば意味を失くすし、止めれば還って来れない」
だから止めない。必ず出撃前にやる。
「だから無理」
そんなもの必要ない莫迦げたものだと思っていた。そう思っていたのに
それにしがみついてしまう俺の方が莫迦なのだ。
それでも還って来たいのだ、この艦に。彼女がいるこの場所に。
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(8『出撃!』)2007/06/03・種時
どんな事があろうとも譲れない
莫迦な男のジンクス話…
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