「何故戻って来た!裏切り者のくせにっ」
  掴みかかるが如く、そう迫られた。
 どうも俺という人間は他人に、特に女にそう言わせるのが好きらしい。
 前にも一度似たような台詞を言われた事がある。

 

 

 

  『どうして戻ってきたの』かと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうして、って言われても?
  あのまんまじゃ巻き込まれて死ぬ可能性だってあるだろ?
  俺はまだ死にたくないんでね、生きられる確率が高い方を選んだだけさ」

  AAの食堂にあいつともう一人、同年代らしき男に連れられてこの状況にいたる。


  俺の質問の答えに納得していないとばかりにその男は溜息を吐いた。
 「それでも俺たちを助けてくれた理由になってないだろ?有り難いけど」
  その言葉に今度はこちらが溜息を吐く番だった。
 ただし、目の前の人間たちには気付かれぬよう。

  確かにこの男の言う通りなのだが、別に嘘を言った訳ではなかった。生身であの
 戦火に巻き込まれて死ぬのは真っ平ごめんだったのだから。でもそれ以上に、死な 
 せたくないという義務感に駆られたなどと奴らに言いたくはなかったのだ。なにせ
 ついこの前までこの艦を落とそうと躍起になっていた奴だったのだから。
 だからこそ言ってはならないと感じていた。

 「べっつに〜?勝手に体が動いてただけ」

 

 この遣り取りの間、あいつは最初に口を開いただけで後はずっと俺を睨んでいた。

 

 

 

 

 

  あの時のあいつとは違う感情が篭った瞳で今回も女に睨まれている。
 「気に食わないって思うのは仕方ないからな、何にも言わねぇよ」
  今度は食堂ではない。ただのザフト軍の一般兵用の一室。
 イザークの隊に、と宛がわれた一室で、それでも前のように二人の人物が俺の視界
 にいる。ましてその内の一人はある意味場違いな訳で…
 はぁ、と溜息を吐きながら、部屋の壁に寄り掛かっている友人に目線をやる。

 「で?な〜んでここにイザークさんもいるわけぇ?」
 ここは隊長専用の部屋じゃないでしょ、なんて言いながら。

  綺麗な顔にきつい目つきでこちらを見ている。別に睨まれているわけではないの
 だが、多分こいつの事をちゃんと知っている奴以外は睨まれていると思うような眼
 をしていた。

 どうも今回は誤魔化せそうにない気がする…
 「気にするな」

 「あ、そ」

  睨みはしないが、怒っているのだろう。今までの事で。
 気持ちは解らなくもない。もし反対の立場で、こいつの性格をしていたら怒ってい
 ただろう。それに少し前だったら、こいつに胸倉掴まれて貴様は一体何を考えて
 いるんだ≠ニ怒鳴られていただろうし。

 「何も言わない?逃げるつもりか、ディアッカ・エルスマン!」


  イザークに代わり、今度はこの女が怒鳴り役か…何か昔を思い出させる。養成所
 時代からアスランはこんな感じだったのか、なんて思うと嫌でも溜息が出る。

 「逃げてるわけじゃないさ、ただ反論のしようがないってだけ」
  肩をすくめてそう答えてやった。
 「なにっ!」

 「少々落ち着け、シホ」
  壁から身体を離し、赤を着た女…シホの肩に手を置いてイザークが言った。
 「しかし!」
 「こいつにも考えあっての事だ、お前が気にするような程じゃない」
 俺にも何を考えているのか解らんのだからな、と俺に眼を向けて。

 

 

  イザークはシホを退室させると、俺を連れて隊長室に入る。
 流石にここまで連れて来られると諦めるしかないようで、「降参時ってやつ?」と
 それでも少し茶化した物言いで椅子に座ったイザークに対して立ったまま両手を挙
 げて言った。
 「何を考えて戻ったのか聞かせてもらうぞ、ディアッカ」

  改めた場で言われた言葉はやはり、と思う内容だった。
 「あれ?前に言わなかったっけ?
  ただあん時はザフトの命令に従えなくなったって」
  おちゃらけた様に答えたら、流石に睨まれる。

 「俺が聞いているのはそんな前の話ではない、今のことを言っている」


 「今、ねぇ…まぁ前とは体制が変わったからな、それでだよ」

  ごく真面目に答えたつもりであったが、どうも誤魔化しが効かなくなったのか、
 それとも俺の性格をしっかり把握したのか、「誤魔化すな」そう一刀両断された。
  やれやれ、厄介な事だ。これからは本音を言わなくてはいけないのかと思うだけ
 で今日何度目かの溜息が出た。
 「大体お前が考えてる事と一緒だよ…アスランと違っただけだ」


 「…」
 「俺はアスランじゃないからな
  プラントはやっぱり生まれ故郷で、棄てられない」

  もっと奥底にある考えについては触れなかったが、「なるほどな」と溜息を吐き
 ながらも納得したようだった。



 「なら、お前が死なせたくないと言った者たちはいいのか?」

  そう言われて流石に驚いた。まさかそれを聞いてくるとは思わなかったからだ。
 この男が変に義理人情篤い事をすっかり忘れていた。

 「別にあいつを…あいつらを忘れたわけじゃないさ…
  寧ろ忘れられないし、忘れるわけにはいかない」

  あいつがあの戦争で彼氏を亡くして忘れられないのと同じように、例えどうなろ
 うとも俺は一生忘れない。


 「お前はそれでいいのか?」

  まるで最後の確認とばかりに聞いてくる上司に答える。
 「アスランにオーブで頑張ってもうらだけ
  あいつとキラたちがいれば何とかなるだろ?
  だったら俺はお前の手伝いしながら、
  少しでも早くいざこざを無くすように努力するだけだ」
 
  イザークはそれ以上は何も言わなくなった。
 顔にはもう別の顔に切り替わっていたから俺はその場を後にした。

 

 

 

 

  あの時のあいつは俺の言葉をどう捉えたのかなんて解らないが
 それでも最後にごく小さい声で言われたあの言葉は
 俺の中で何かを崩し、
 何かを形成させた。

 それを壊させるわけにはいかないのだ


 その為に今ここに俺はいる。

 

 

 

 

 

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2005/02/17(2006/4改定)※…背信者・裏切り者
裏鬼(改定版は本館)にて掲載していたss救済
再度の改定はせずにそのままでお許し下さい。
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