嫋やぐ顔で「いいえ」と言って背を向け任務に行った彼と二十余名、
 そして数頭の剣牙虎のゆく末は考えずとも明らかなものが待っていた。

 「西田小隊、全滅です」
 疲労隠せぬ顔で導術兵が中隊長の若菜にそう伝達したのは千早が
 空に向かって遠吠えをあげてから数刻も経たぬ後であった。
 「そうか、だが時間は稼いだ」
 幼年学校時代からの西田の顔が新城の脳裏を掠めていく。
 千早は未だに声をあげていた。


  西田に全てを教え込んだのは新城本人であった。そしてその中で
 (教える物の一環と称して、だが)関係を彼等は度々結んでいた。
 それが必要に迫られる立場にあるというのは此処にある全ての隊員の
 暗黙の了解であったし、やはり否応無く痛感する試練の一つでもあった。
 それを行う際の感情が実際異性の、しかも好意を持つ者に対する其れ
 と酷似しているかと問われるとそうであるという事は言い切れなかった。
 だがしかし、少なからずでも好意がない相手でも良いという訳ではない
 事も確かではある。
 そして確実に新城は西田に好意を持っていた。
 (でなければ何だと言うんだ、これは)
 幼年学校時代から目を掛け、遊郭も教え、そうでない時の方法も教えた。
 (だがそういう意味を持ってすると当て嵌まる者は一人しかいないな)
 思った瞬間泣き黒子の義姉の顔が新城の脳裏にちらつきそうになるのを
 頭を一つ振って追い出す。西田本人も同じ穴の狢で、新入りのうら若い少
 女を彼が気にかけていた事は連れ出した新城の目からは明白な事柄で
 あった。彼は皇都に戻れた上での暇と懐に余裕があれば通おうとしていた
 だろう。それも戦続きで終ぞ馴染みにはなれなかったが。
 「お前も将官なのだから相手を見つけたらどうだ」
 いつだったか西田が少尉になった時、新城はそう言った事がある。暗に
 自分の相手をする必要はないのだと言ったのを承知で「僕は僕の意思で
 先輩の相手をしているんですよ」と笑って答えた。
 「ところで先輩、就任祝い忘れてませんよね?」
 「ああ、お前の部屋でいいか?
  それとも僕の所の方がいいならそれで構わないが」
 「じゃあ僕が先輩の所に行きますよ」
 楽しみにしていると言う無邪気にも見えた笑顔。
 その顔が今はちらついて離れない。
 (これ以上思い出に耽るのは不味いな)
 この後の記憶が出てくれば冷静になった頭にも体にも毒だった。なにせ
 先まで馬を斬り、ヒトを斬り、血を見た興奮で滾ったものを再発させている
 余裕などこの状況下ではない。


 「守原大将閣下の無事も確認されたんだな?」
 若菜の声が嫌に耳についた。
 (西田も隕鉄も、碌に才能のない男爵家出の仕官なんぞの下にいたお陰で
 あの任務を言い渡された時点で全てを失くした。)
 「新城中尉殿?」
 一人少し離れた所で立ち止まり、先程から動こうとしない新城に曹長の
 猪口が声を掛けてきた。それに応じる様に口を開く。
 「なるほどね」

  ―「隕鉄≠チて名にしようと思うんです」
    「ほぉ、中々剛毅な名だな」

 (成る程…)

 「何もかも、無駄になったな」
 去り間際に西田に言われた遺言が新城の中に響く。
 千早の遠吠えに悲しみが増した様に感じた。
 (これが戦争)
 新城は自分の剣牙虎がいる所に向かい、その背に手を当てた。その手は
 寒さだけの所為ではなく、よく知る者の死を間近に感じて震えていた。
 歯の根が合わなくなりそうになるのに気付き、自嘲的な笑みが毀れる。
 「面白いな、やってやろうじゃないか千早」
 それに応えるかの如く、先程までとは違う音色で千早は吼えた。



皇国の守護者(新城*西田) 漫画一巻以前〜一章剣虎兵2
新→西のような西→新のような。
でも完璧な恋愛間じゃない関係。

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